厚生労働省の予防接種基本方針部会は10月4日、これまで無料の定期接種で使っていた2種類のワクチン(2価、4価)に加え、より効果の高い9価ワクチンを2023年度の早期から新たに使えるようにすることを了承した。 ただ、HPVワクチンは、世界的な需要の高まりで不足する事態となっており、人気の高い9価ワクチンが、これまで8年半も実質中止状態だった日本に十分供給されるのか危ぶむ声も聞かれている。 これに対し、製造販売元のMSD社は、「安定的な供給に向けて引き続き努力していくが、絶対に足りるという保証はできないと言わざるを得ない」と、言葉を濁す。

90%以上の子宮頸がんを防ぐ高い効果

日本ではこれまで、子宮頸がんになりやすい16型、18型のHPVへの感染を防ぐ2価ワクチンと、その2つの型に加え良性のイボのような尖圭コンジローマを起こす6型、11型も防ぐ4価ワクチンが定期接種に使われていた。これらは子宮頸がんの70%前後を防ぐとされている。 9価ワクチンは、4価ワクチンがカバーする4つの型に加え、やはりがんになりやすい31、33、45、52、58の5つの型も含めた9つの型への感染を防ぐ。 子宮頸がんの90%以上を防ぐワクチンとして先進国では主流となりつつあるが、ワクチンの安全性に不安を抱く人が多い日本では承認が遅れ、昨年2月24日に発売されていた。 9価ワクチンは子宮頸がんを防ぐ効果の高さと、3回で10万円という自己負担額の高さから、定期接種の対象にしてほしいという声が高まっていた。

歓迎する声と、「不足しないか」心配する声も

9価ワクチンの定期接種化の知らせを、HPVワクチンの啓発を進めてきた専門家たちはもちろん歓迎している。 「HPVワクチン需要の世界的な高まりを受けて、各国での供給状況にいち早く対応できるよう順次生産体制の強化を進めている。基本方針部会での議論内容に沿って厚生労働省と密接に連携し、安定的な供給に向けて引き続き努力していく」 その一方で、確実に足りるようにできるのか、という質問に対しては、「日本に絶対に安定供給できるかどうか約束はできないし、明言はできないのが申し訳ないところだ。現時点では保証できるというところではない」と言葉を濁す。 MSDの広報担当者は、「基本方針部会での了承ということで、厚労省の方針確定までは流動性があると思う。確定した内容を加味した上で、安定供給に向けて努力するのは社としての合意事項」とし、基本方針部会の了承内容を決定事項としては受け止めていない考えを明かした。 厚労省は基本方針部会の資料で、昨年4月に開かれた「第17回ワクチン評価小委員会」でのMSDの発言から、「9価HPVワクチンの製造販売業者であるMSD社によると、2023年中に安定的な供給体制の構築が可能になるとのことであった」と供給見込みについて述べている。 ところがこの資料で引用された発言についてもMSDは、「これは昨年4月の段階の発言で、その時と今は必ずしも同じ状況ではない。積極的勧奨の状況も違い、世界の需要もその時よりも増してきている。状況は変わっている」とする。 その上で、MSDとしては、対象者が9価待ちをして2価、4価ワクチン接種を差し控えるケース、新しいワクチンである9価を怖がって敬遠するケースも、様々なケースを想定して、供給について検討しているところだという。

厚労省「これからメーカーに供給について確認」「9価待ちはしないで」

一方、厚労省の予防接種担当参事官室の室長補佐は、「供給の見込みについては、昨年4月のMSDの発言以上のものは現状はない。審議会の議論を踏まえて、改めてメーカーには供給について確認したい」としている。 つまり、事前にMSDから安定供給できる確約を得た上で、基本方針部会を開いたわけではないようだ。 「学年ごとに接種しているワクチンなので、できれば学年の切り替え時期(4月)にしたいという気持ちはある」としつつ、「2023年度早期」という表現に留めているのは、「供給の問題と自治体の準備の問題があるからだ」と言う。 さらに「早期という言葉は『意気込み』であって、上半期という意味ではない。次の審議会でメーカーにも確認して、十分に供給が整ってから適切な時期に始めたい。1年、2年と遅れるようなことはないようにしたい」とも述べた。 時期が未確定なのに、9価ワクチンが定期接種で使えるようになると公表すれば、2価、4価を差し控えてずるずると9価待ちをする対象者が増えるのではないか、という問いに対しては、こう答えた。 「今あるワクチンは16型と18型という子宮頸がんになりやすい型をカバーできて、がんも予防できるエビデンスも出ているので安心して接種してほしい。HPVワクチンはできるだけ早期にうつことが(効果が高くなるため)推奨されているので、9価を待たずに今あるワクチンをうってほしい」

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