制作統括を務める清水拓哉さんは、三谷幸喜さん脚本の大河ドラマを束ねるのは『真田丸』に続き2作目。 一番近くで見ていたからこそ感じる、3度目の大河ドラマに挑む「三谷脚本」のすごさとは? (前編はこちら。取材は11月21日、オンラインで実施した) 8月末だったでしょうか。なので2ヵ月前くらいですかね。 スタッフとしては脚本が早くあるに越したことはないんですよ。いろんな準備のためには。 でも三谷さんの産みの苦しみを間近で見ている僕としては「もっとおもしろくなるはずだ」って思ったらやっぱりギリギリまで待ちたくなってしまう。 現場はどこまで待ってくれるのか?というせめぎ合いですね。 ――清水さんも板挟みでプレッシャーですね。 でも、現場は常に脚本を信じてくれていたので幸福だったと思います。 待ったら待った分、すごい脚本が出てくる確信がみんなにあったので。 ――長くお仕事していても、三谷さんの脚本には「すごい!」と思わされますか? もちろん!毎回何かしらありますね。 幸せなことに最初の読者になれる身ですが、毎回「この発想はすごいな!」「これこそ見たいシーンだ!」と脱帽するシーンは必ず1個はありますよね。 歴史をどうドラマで描くかという点もありますが、一番はストーリーテリングの力です。 瞬間の感情のぶつかりあい、人間性や性格が垣間見える何気ないシーン……あげるときりがないですが、初稿時点でめちゃくちゃおもしろいな!と思っています。 仮に「史実とあまりにも違っているから修正しましょう」となったとしても、ここいい!と思ったところはなるべく大事にして、「このアイデアだけは絶対活かしたい」と整理することは心がけています。

歴史学者も唸った「上総介の死」

――特にびっくりしたところ、こうくるか!と思ったところはどこですか? 第1話の冒頭からびっくりでしたよ。(北条)義時が馬の背に姫を乗せて疾走してると思ったら……「頼朝かよ!」っていう(笑) ――あれは視聴者もみんな「え!?」でしたよね。 個人的に好きだったのは、八重(新垣結衣)が対岸の北条家に弓を射るところ(第4回「矢のゆくえ」)。 アクションとしても映えますし、信念を持って行動する八重の強さ、凛々しさが伝わってくる。あそこはすごく好きでしたね。 あとは……みなさんにも強烈なインパクトだったと思いますが、上総介(=上総広常。佐藤浩市)を見せしめで殺すという一連のアイデアも震えました。 数年の空白期間を経て、1184年1月に記録が再開された最初の日に、「昨年の末、上総広常の事件があり、源頼朝の暮らす大倉御所がけがれてしまった」という一文だけあって、どういう状況だったのかは書かれていない。 なんでこのタイミングで殺されたのか?わざわざ御所の中で?というところから三谷さんは膨らませていったんですよね。 ――あの放送の後は、悲しみのあまりTwitterのトレンドに「大泉のせい」「頼朝嫌い」なんてワードも並ぶくらいでした。 ドラマとしても盛り上がるし、歴史学者たちに聞いても「あり得たかもしれない」と思わせる説得力もある、絶妙なバランスだったなと思います。

女性を“添えもの”にしない描き方

――三谷さんはインタビューで「自分は女性の書き方が下手だから、今回は女性スタッフの声を聞いてなるべく取り入れた」とおっしゃっていました。 はい、多くの女性スタッフに積極的にアドバイスをもらいました。 時代劇における女性って難しくて、当然現代よりずっと男社会なわけですから、旦那さんを支える“添えもの”的な存在になってしまいがちなんですよね。 「それは絶対にやめましょう」という話は、三谷さんともずっとしていました。平安鎌倉期は女性の力が強かった時代でもあったんですよね。 毎回台本があがってきた段階で制作班を集めて意見を聞くんですけど、特に意見がほしいところは「政子のこの態度どう思う?」「八重のこの発言どう思う?」なんて投げかけて、みなさんに忌憚なく答えてもらいました。 例えば、物語的には八重は離婚してもずっと前の夫である頼朝のことを想い続けている、という展開にもできたと思うんですが、女性陣から「それはちょっと都合よすぎないですか?」なんて声があがって。 もちろんそういう描き方が好きな方もいらっしゃったでしょうし、「女性」全体でひとつの意見があるわけではないですけどね。 ――なるほど。そうなっていたら八重への印象もかなり変わっていた気がしますね。 逆に、りく(宮沢りえ)さんの高飛車な感じの発言は、「これ反感買うかな?」と相談したら「いや、むしろ最高です、痛快」みたいに盛り上がってくれた覚えがあります。

「予想通り」はない

――清水さんの中で、特に俳優さんとの化学反応が印象的だった役はありますか? 僕が印象的だったのは…時政さん(坂東彌十郎)ですかねぇ。 三谷さんはもともと歌舞伎で直接お仕事されていて、どういう方なのかご存知だったと思うんですけど、僕らは歌舞伎以外では演技を観たことがなかったので。 あそこまで自由自在にお芝居できる方だと思っていなかったですし、硬軟のつけ方、チャーミングさと厳しさの振り幅に何度も驚きました。ほかの歌舞伎役者の皆さんもそうですけど、恐るべき芸能です。 でもどの役も「予想通り」ってことは、ないですね。皆さん必ず想像を超えてきてくれた。その姿を見て三谷さんが刺激されて…っていういい循環はあったと思います。 それくらい、役者に「全力でやるんだ」「普通のボールは返せない、フルスイングで打ち返さなきゃ!」って思わせるパワーのある本なんでしょうね。 ――終盤が近づくにつれ、三浦義村(山本耕史)の動きが気になるのですが……。表情の読めなさが不穏です。 耕史さんは、また大河でお仕事したいなと思っていた俳優の1人でした。 『真田丸』では石田三成、『鎌倉殿』でいうと梶原景時的なポジションの役をやっていただいたので、また違った一面を出してもらえたらいいなと。 『新選組!』の土方歳三ともまた違いますしね。土方は近藤勇にすべてを捧げていますけど、義村は別にそうじゃない。 本来は「三浦」の方が「北条」よりずっと格上の一族だったはずなのに、いつのまにか逆転されているのは胸中穏やかではないはず。 でも、幼い頃からの親友である義時にはもちろん情がある。厳しい環境に揉まれて、彼が冷酷に変わらざるを得なかったこともわかっている……。 彼の存在は最後まで鍵になるので、ぜひ楽しみにしていてください。 強いて言うなら……義時を、心配してあげてほしいです。今は“恐怖の執権”ですが、彼は望んでそうなったわけではないので。 ――昔はあんなに気のいいお兄ちゃんだったのに、辛いです。 そう、あの頃の彼を思い出していただいて。 頼朝のため、政子のため、鎌倉のため、とここまでやってきたのは、ひとえに彼の責任感や生真面目さゆえ。 それは本来、人間としてポジティブな面なはずなんですよね。 ――何かが違えば、その長所が輝いていたかもしれないですよね。 今で言うと「ワーカホリックなスーパーサラリーマン」なのかな。 仕事に没頭していたら大事なものをいつのまにか失っていた、という悲しみは、現代にも通じるテーマだなと思います。勝者のはずなのに、悲壮感がある。 頼朝もいない、八重もいない、彼の孤独を本当にわかってくれる人がもういない、というのはとにかくさみしいですよね。義時自身が他人を拒んだところもあるんですけど。 ――……義時、救われてほしいと思って見ていてよいですか? いいです、ぜひ寄り添ってあげてください。視聴者のみなさまだけでも……。 孤独に歩み続けた義時、最期に彼に救いはあるのか。あと少し、見守ってほしいですね。 (衝撃の「トキューサ」「オンベレブンビンバ」なんでそうなった?ファンの疑問に答える編はこちら) 反目する北条義時(小栗旬)を討ち取るため、義時追討の宣旨を出し、兵を挙げた後鳥羽上皇(尾上松也)。これに対し、政子(小池栄子)の言葉で奮起し、徹底抗戦を選んだ幕府は、大江広元(栗原英雄)や三善康信(小林隆)の忠言を聞き入れて速やかに京へ派兵することを決断。泰時(坂口健太郎)、平盛綱(きづき)らが先発隊として向かい、時房(瀬戸康史)らが続く。

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